2023.07.29 交差点

駅までの道の途中、風に煽られて橋の上で何度も日傘が裏返った。橋の終わりの歩道に誰かのエクステンションと思われる茶色の長い毛の束が落ちていた。信号を待ちながら風で飛びそうで飛ばないそれを振り返りながらしばらく眺めた。顔を上げると交差点の対角の白い壁の大きな落書きが目につき、うっすらと不快感が込み上げる。どうせ描くならもっと素敵なものを描けばいいのに。ストリートアートという文化が日本には根付かないのはどうしてだろうか。信号が変わって横断歩道を渡ると向かいから走ってきた自転車から何かがぱっと風に吹かれて飛んだ、駆け寄るとそれはベージュのキャップで、拾い上げて振り返ると自転車の後部に乗っていた少女がありがとうございます、と感心するほど丁寧にお礼を言った。長く真っ直ぐな黒髪が風にふーっとなびいて膨らんだ。

駅までほんの少し歩いただけで喉がからからになり、こんな中苗場にいるひとたちのことを思う。このまま気温が上がり続ければ夏フェスというものがなくなるのにもそう時間はかからないかもしれない。

この一週間ほどはなんだかずっと、泣きそうな気持ちがほそーく続いており、さっきマイクの前で歌っていれば途中でほとんど涙声のようになってしまい、なんだろうな。もう8月になろうとしている。先延ばしにしてきたあれこれも、8月中には決断をしなくてはいけない。歌っても歌ってもべつに何が埋まるわけではない、それでもだけど歌う、歌う、のは、いったいなんだろう、気休め、ではなく違うもっと良い言葉があるのではないかと思って頭の中を少し探してみたけれど見当たらなかった。秋には新しい作品を出したい。