2023.08.03 なんの理由もなく

ひどくぐっすり眠れた。きのうは昼と夕方に一杯ずつアルコールを飲み、そして何より食べ過ぎていたけれど胃が落ち着くのを待って走りに出れば月がとても大きく明るく、数日前に会った友人が数日後が満月だと教えてくれたことを思い出してきっと今日が満月だと思った。いつも夕陽が沈む方角に走るか歩くことが多いけれど、きのうは月の浮かんでいる逆の方向に走った。川沿いでは何組かの若者と思われるグループが花火をしていてときどに懐かしい香りがした。風が気持ちいいなあと思いながら川面に映る黄金色の月明かりを見ながら走った。少し身体を動かすとよく眠れるのかもしれない。最近はいつかのように眠れない夜はほとんどなくなって大抵の夜は滞りなく眠れていて、そして眠っているときは眠っているつまり無意識だというのに起きたときに「ぐっすり眠れた」とわかる、感じる、ことは、不思議なことだなと思う。目が覚めて、特に好きでも思い入れがあるわけでもない曲が頭の中に流れていて、特に好きでも思い入れもないのにな、とそのことも不思議に思う。

相変わらず目覚ましは7時過ぎにセットしていて、その時間に目は覚ますけれど、最近はまたベッドに戻ることが増えた。あまり起きることに対する意欲、つまりその日一日を生きることに対する意欲が湧かない。最近は生きることにあまり興味がない。この間、寝室の網戸の内側にバッタのような形状と大きさの緑色の虫がくっついており、どこから入ってきたのだろうと思いながら要らない紙を待ってきてベランダから外に出した。こんなところに入ってこられたのだから、ベランダに出せばどこかに帰るだろうと思っていたのに、数日後洗濯物を干そうと再び戸を開けるとすぐ足元で死んでいた。きのう、窓を開けたまま湯船に浸かっていると指先よりもうんと小さく、白というよりほとんど透明な蜘蛛がわたしの左腕にどこからか降りてきて、半分閉めた湯船の蓋の下の方へと入っていった。蜘蛛はどこでもうまく歩くのだろうか例えば湿った湯船の蓋の内側でも、きっとそうなのだろうと思っていればそのすぐあとにその蜘蛛と思われる小さな物体が湯船に浮かんでいた。バッタに似た虫も蜘蛛も、わたしが殺したのだろうか、助けるためのより積極的な姿勢を持つべきだっただろうか、という考えが一瞬浮かび、それからこんな小さな生き物たちはこんなにも簡単に、なんの理由もなく死ぬのに、わたしはどうして、なんの理由もなく生き続け、なんの理由もなく死なないのだろうという、そういうことを思った。