2022.05.16 交差する

先週の木曜日から、バタバタと、思いがけずたくさんの、いろんなひとに会った。その多くは久しぶりに会うひとたちで、わたしはいろんな言葉を投げかけられ、いろんな想いをした。そのことを、今日ようやく文字に書いてみていたのだけど、それは日記として残すにはあまりにボリュームがあり過ぎて収まりそうになかった。ので、他のところに書くことにして、この数時間それを書いていた。いつかどこかに出すかもしれないし、出さないかもしれないたくさんの言葉。そういうものを少しずつ書き溜めたいなと思っている。

土曜日、下北沢ERAの20周年イベントでやまみさんが何年かぶりのライブをするということをTwitterで知り、何ヶ月も前から予定を空けていた。昼のイベントだったので、いつも仕事に行くよりも早い時間に家を出た。同じ日の夜にERAでライブだったEmeraldのメンバーもやまみさんや他の出演バンドと仲が良いらしく昼から来ていた。彼らと会うのも久しぶりだったので転換の合間に話をしながら一緒にライブを観た。

わたしはやまみさんの歌がずっととても好きで、過去に何度か一緒にライブをしたこともあり、サーカスでのライブに出てもらったこともある。やまみさんの歌はわたしの中の、他の何をも触れられない場所にすーっと入ってきてとても自然に触るから、聴いているとわたしはいっつもなんだか変な風に泣いてしまって、それが何の涙かわからなくて戸惑うけれどちっとも嫌な感じじゃなくて、それがなんなのか、いつも不思議に思う。土曜日もやっぱり、同じようにわからないままに涙が出た。

ERA周年祝いのために長らく活動していなかった昔の仲間たちが久しぶりに集まったイベントだったようで、お客さんを含めて同窓会のようなあたたかい雰囲気があり、それがとてもよかった。わたしも久しぶりのライブハウスだったこともあり(なんとERAには初めて行った)その感じにすっかり感化されてしまい、Emeraldの智さんに「Emeraldの演奏に間に合うかわからないけど夜仕事終わったら戻ってきたいから名前を入れておいて欲しい」と頼んで店を出た。

夜ERAに着くとやっぱりEmeraldは終わっていて、でも転換がずいぶん押したらしく対バンのsleepy.abの演奏はゆっくり聴くことができた。sleepy.abは東京では三年ぶりのライブだったらしい。わたしが彼らの演奏を最後に(というかそれが最初で最後だったような気もする)観たのもEmeraldとのツーマンだった。あの日は新宿MARZ。懐かしいな。ERAは満員だった。ライブが終わったあと会場で会った友達と話していると、sleepy.abのお客さんと思われる女性に話しかけられ、いつだったかsleepy.abの成山さんと、それから潮田さんとわたしで7th floorでライブをしたときに作った特典のCD(ボブ・ディランの”Blowin in the Wind”のカバー)を今でもよく聴いてます、と言われた。あの場所でわたしの存在に気づくひとがいること自体に驚いたし、あのときのCDをそんな風にいまも大切にしてくれているひとがいることにも驚いた。

Emeraldのメンバーに会うのも随分久しぶりだったので、当たり前のような顔をして終演後の中打ちに参加した。成山さんもすぐにわたしに気付いて「久しぶり」と声をかけてくれた。北海道のライブハウスはどうですか、と訊くとやっぱりずいぶん閉まったと言っていた。東京より北海道の方が規制が厳しいらしく、いまだに半分くらいしか客を入れられず、それだと採算が取れないからバンドでのライブはほとんど出来ていないと言っていた。成山さんは最後のCIRCUS FESに出てくれていたからサーカスの話も少しした。さっき一緒にやってもらったときのCD今も聴いてますと言ってくれたひとがいました、と言うと「あのときのライブすごいよかったよね」と成山さんは言ってくれて、いま思ったけれど、成山さんがなにかや誰かを否定するようなことを言うのをわたしは聞いたことがないかもしれない。そういう懐の深さがあの歌声になっているのかもしれない。

sleepy.abのメンバーが先にERAを出るのを見送り、気の知れたEmeraldチームと久しぶりにゆっくり話をした。なんか、相変わらずみんな優しくていいやつで、フラットにわたしに話し、フラットにわたしの話を聴いてくれて、その感じがとても心地よかった。久しぶりだったからかみんなわたしに話を次々振ってくれて、わたしもよく話した。制作の話をすると智さんがすごく喜んで「めっちゃ楽しみだなー」と言ってくれて、それからお互いの制作の過程の話になってとても良い頃合いのところで終電の時間がきて、わたしはこのまま終電を逃してもまぁいいかなと思ったけれどそれに反して体はぱっと立ち上がって、みんなに挨拶をしていた。楽しい時間はちょっと足りないくらいが丁度良い、たぶん。それにみんなにはまた来月会える。

何日か前に、それも何年かぶりに会った友達の言葉と態度がわたしの中に巣食っていて、すごく重たい気持ちになっていたから、彼らとの時間と会話にとても助けられた。みんな相変わらず本当にいいやつらだなと思いながら最寄りの駅を降りてコンビニで買ったシュークリームを食べながら川沿いの道を歩いていると、川の向こう側の空にミラーボールのような光の粒がくるくると降っていた。立ち止まってしばらく眺めていると、自転車で通りかかった女性が運転をやめて動画を撮ってまた走り去って行った。下手なプロジェクションマッピングみたいだった。あれはいったいなんだったんだろう。

次の日起きてiPhoneの開くと「交差する」とだけ書かれた書いた覚えのないメモが残っていた。