2023.03.13
2枚目のアルバムに入っているThis Tiny Nightという曲がある。すごく好きだったひとがいた。そのひとが隣で眠っていたいとき、触れたくて触れたくてでも触れなくて、朝になってそのひとが帰って行ったあとも枕とか部屋のあちこちに残っている微かなものたちを頼りに小さな小さなまるい夜の余韻の中に留まろうとした、そういうことを書いた。当時わたしはそのひととは別に付き合っていたひとがいて、彼はこの曲をとても気に入っていた。たぶんだけれど、自分のことを歌った曲だと思っていたのではないか。わたしは申し訳ないとかというより、彼の健気さを不憫に思った。アルバムのインタビュー終わりにライターさんに恋人のうたではないと話したら「嫌だ、悪い女なの?」と言われた。ひと回りくらい歳が上の女性のライターさんだった。彼女は猫の歌かと思ってた、と言っていた。そういうことを今朝は、パンケーキを作りながら思い出していた、キッチンで。何日かぶりにゆっくりコーヒーを淹れた。
きのうはわりにするすると歌が録れて、だけどわたしはなんだかずいぶんとくたびれて、帰り道にはこれ以上ないほど孤独でどうしようもない気持ちになり体を引きずるようにして家まで帰った。シャワーも浴びずにまっすぐベッドに入って少しだけ本を開いたけれどすぐに眠気がやってきて、きのうは久しぶりにぐっすりと眠れた。今朝は風が強いなぁと思っていれば急に横殴りの雨、気分の停滞は結局大抵は気圧のせいなのだった。しかし渦中にいるときはそのことに気づくのは難しい。いつもあとになってからわかる。あとにならないとわからない。いろんなこと、いつもそう。
おとといの夜、ベッドに入ってふとリリースのあれこれについて考え始めて、そうするとずるずる、いろんなことが考え出されてよくわからなくなった。君島さんや吉木さんや、いろんなひとに意見を訊いてみようと思って目を閉じた。音楽は作っただけでは聴いてもらえないのだという当たり前のことを今朝はなんだかひどく痛感して、そのことをだけどどういうふうに受け止めたらいいのかわからない。
続いているレコーディング、まだひと塊り残っているけど、ツバメスタジオでの録音分は今日でお終いの予定。関わってくれるひとが増えてもみんながそれぞれにどれだけの愛情を持って関わってくれても、でもこれはほかでもない自分自身の作品なのだ、そのことを忘れてはいけない、と思う。悔いのないように。