2023.09.08
目が覚めると雨が降っていて、いや、嘘、夜のうちから雨が降っていたことをわたしは確か夜中に一度目が覚めたときに知っていた、とにかくだけど目が覚めたときには雨が降っていて、窓の外から車が水を切って走り過ぎていく音がして(わたしはこの音がとても好きでいつか曲に書いたこともある)、きのう届いて一度水を通したばかりの寝具からは香ばしい香りがして(香ばしい香りというのは意味が二重になってしまうから間違った日本語ということになるのかしら)真新しいリネンというのはこういうにおいがするのだなということをわたしは初めて知る。出しっぱなしになっていた腕や足をブランケットの中にしまってしばらくぬくぬくしてから起き出して、上も下も袖丈の長いものに着替えてキッチンに出て行ってお湯を沸かす。わたしは年中白湯を飲んでいるけれど今年の夏ばかりは暑すぎて、常温の水を飲んでいたので起き抜けにお湯を沸かすのは久しぶりで、あぁこれからまたしばらくは毎朝これをする日々が続くのだなというようなことをぼんやり思って、夏の終わり。Henning Schmiedtをかけて、窓際の椅子に腰掛けて窓の外の灰色の景色を見るともなく見ながら、雨の音とピアノの音を聴いていると、ふっと、ああ完璧だ、と思った。すべてがぴったりとあるべきところにあり、まあるく満たされたまったく完璧な朝だ、と、そういうことを思った。ほんの数分でその感覚は過ぎ去ってしまったけれど、ほんの数分でもそういう瞬間があるならそれはまったく十分なことなのではないか。雨が好きだな、と思う。コーヒーがひどく美味しい。