2024.05.19
友達のライブへ出掛けた帰り道、少し酒を飲んで良い気分で池上線に乗り込むとわたしの少しあとにやって来て隣に座った外国人の男性が話しかけて来た。カナダ出身、日本で英語を教えている。カンフーだかなんだかの帰り。もう6年も日本に住んでいるというので、日本よりカナダの方がよっぽど住みやすいだろうにとわたしが言うとそうでもないよといった風なので理由を聞いていれば、世界はいまおかしな方向に向かっている(ここまではわかるわかると頷いていた)カナダは元々白人の国だったのに今では逆転して、白人でストレートだと住みづらい国になってしまった、カナダのジェンダーや移民政策は行き過ぎだ、”white shaming”が”real”になってしまった、“おかしな”方向に向かっている、その点日本はまだマシ、ということだった。わたしが言葉を失っていると彼はその理由を勘違いしたらしく「いきなりシリアスな話してごめんね、あはは」と誤魔化した。また会おうよ連絡先教えてよと言うので彼の連絡先を一応受け取り、もちろん連絡しなかった。
そうして電車を降りて夜道を歩いているとなんとなく後ろに気配がして、例えば同じ方向のひとが少し離れた後ろを歩いているなんてことは当たり前によくあることだけどなぜか何となく気になっておやと思っているといきなり後ろからすみませんと声をかけられてわたしが降りた駅からふたつ離れた駅の場所を聞かれた。自転車を引いた大学生くらいに見えるとても若そうな男性だった。スマホで調べられることをわざわざ訊いてきて本当何なんだろうと思いながら、周りに誰もいないし無視するのも怖いから仕方がないので適当に説明した、ありがとうございますと言うのでとりあえずほっとして歩き出そうとすると彼氏いますか、と言うので心底馬鹿馬鹿しくなってイヤフォンを耳に突っ込んで歩き出した。
例えば人混みの中で声を掛けられたら無視して歩き続ければそれで済む。でも隣合わせた電車で、人っこ一人いない夜道で、どうすることが正解なのだろうか。電車では、思うに、たぶん黙って席を立って降りて次の電車を待つか違う車両に移動するかすれば良かった。夜道では、無視するのも怖いし、思いつく最善の解としてはこの辺に住んでいるわけではないのでわかりません、と言えば良かったのかもしれないあるいは無視して電話をかけるふりをすれば良かったのかもしれない。
ミルフィーユのように何層にも積み重なった複雑な最悪さを食らって本当に最悪な気分になったけれど、久しぶりに会う友人と連れ立って良いライブを見て良い気分で帰ってきたそういう夜をこんなことくらいで台無しにされてたまるかと思って、お風呂の中で必死に流した。しかしもやもやするよねー、といった気持ちはやっぱりゼロにはならなくて、知らないひとに街で話しかけられた場合、もしかしたらもしかしたらなにか困っているのかもしれないという微かな親切心みたいなものが沸くから無視するかどうするか一瞬迷うわけなのだけれど、でもよくよく考えてみれば知らない女性に話しかけられたことなんてほとんどない(占いのひとくらい)。だから問答無用で男は全員無視すればいいのだそれでいいのだと結論する。下らない。下らな過ぎる。
きのう地元の友人たちと子連れでピクニック。途中わたしともう一人でコーヒーを買いに近くのカフェまで行き、先月沖縄に行った話をしていたのでどこか行った?と訊かれ、ライブあったしあまりあちこちは行けなかったけど辺野古に行ったよと言ってみると辺野古という地名を知らなかった。米軍の基地をいま作ってるところだよと説明してもピンと来ていない様子で、間を埋めるように沖縄いいなーと言った。彼女はシングルマザーでほぼフルタイムで働きながら二人の子どもを育てていて、はっきり言って自分の時間は皆無だと思う、おそらくニュースを見る時間も世の中のことを気にする余裕もないだろう、そんな彼女をもちろん責められるはずもなく、しかし彼女は元夫ととても苦労して長い時間をかけて離婚しており、共同親権って知ってる?とよっぽど言おうと思ったけれど結局口には出せなかった。
社会の構造が何層にも何層にも重なったそれによっていまがいまになっていて、なんか本当ミルフィーユ、とわたしは思う。頭が重たくなる。
早く和歌山に帰りたい気持ちになっているけれど、週明けもこちらで予定があるのでもう少しいなくてはいけない。先月も東京に来たしもう当面はいいやと思っていれば友人から結婚パーティーのお誘いがあり、それはそれはもうずいぶん昔から頭の上がらないほどお世話になっているひとなので二つ返事で出席の旨を伝えそうしてまた来月も東京に来なくてはいけなくなった。次は数日の滞在にしてすぐ帰ろう。というかなんか、東京でもライブでもなんでもなく、ひとりでぷらっとどこかに行きたいな。一泊でも二泊でもいいから。
それにしても結婚というものも結婚式というものも、とか考えるんだけどまあそれはまたそのうちじっくり書くかもしれないし書かないかもしれない。奇しくも日本人の女性カップルがカナダで難民認定されたニュース。ミルフィーユ。
きのうの夜は久しぶりに夜全く眠れずそのせいか今日は身体が重くて仕方がない。幸い予定はないので夕方になったら坂本龍一さんの映画を観に行きたいなーとぼんやり。しかし映画館というのは概して街中にあるので。忘れ去られたどこかの隅っこにぽつんとあってくれたらいいのになという妄想。夕方からは雨予報。