2023.02.22
スタジオ仕事。主に待つのが仕事、みたいな一日。いま19時。2時間待っている。1時間外のカフェでコーヒーを飲んでケーキを食べて飽き足らずにチョコレートチャンクスコーンを食べて少し気持ちが悪くなったような気持ちでスタジオに戻ればまだもう少し待ってと言われて上の階の寒くて暗くて無機質なロビーでかれこれ1時間待っている。川上未映子の黄色い家のつづきが早く読みたくて気になっていたからちょうどいいやと思っていたけれど、読み終わってしまった。苦しい物語だった。そうしてわたしは手持ち無沙汰になり、仕方がないのでiPhoneを手にしてなんとなく文章を書く。暇だから文章を書く。1時間以上放置されて、もしかしたらもうとっくにみんなは解散していて、わたしのことなんて誰も気に留めず思い出されることもなく、スタジオはもう空っぽなのかもしれない、と考える。そうして、なんとなく子どものころ家族で大きなスーパーだかデパートだか、あれはなにかの駅ビルだっただろうか、とにかく大きな商業施設で迷子になりかけたときのことをふっと思い出す。おもちゃ売り場で、わたしはなにか、動くなにかだったような気がする、列車だっただろうか、とにかく初めてみるなにか動くおもちゃに夢中になり父のことも母のことも姉のことも弟のことも見失った、気がつくと誰も周りにいなくて見つけられなくて、みんなわたしを置いてどこかに行ってしまったのかもしれないもう帰ってしまったのかもしれない、ひとりぼっちになってしまったのかもしれないどうしようどうしようどうしようとあとからあとから不安な気持ちが押し寄せてきて走り回って家族を探した。そうして母の姿を認めた瞬間に安堵から涙が出た、母は笑い、姉は驚いていた。わたしはあのとき何歳だったのだろう。
とにかくいまわたしはとても眠くて、早く家に帰りたいなと思っている。ロビーは冷え冷えとしている。わたしは今日一日ほとんど待っていただけなのにどうしてこんなに疲れているんだろう。例えば新幹線や飛行機に乗ってどこか少し離れた場所に出掛けていくとき、移動中はほとんど座っているだけなのになんだかやたらと疲れるあの感じに似ている。
声の仕事は有り難いし面白いと思うけれど、なんというか自分とはまったく関係のない世界に、例えるならUFOキャッチャーのああいうなにかクレーンのようなものでぴっとつままれて連れてこられて、取ってつけたオマケのようにそこに存在しているみたいな、なんかそんなような気持ちになる。だからスタジオでの話も頭半分で、違う世界の違う話として聴いているような聴いていないような曖昧な態度でわたしはそこに居るような居ないようなそんな気配でもって。